マサラ記


 高級土産屋を出てインド最後の夕食のため、人気店だという中華料理店にバスは到着した。予約してあるそうだが満員で店の前では沢山の人が待っていて大分待たされそうだ。店の前には自転車に荷を山と積んだ紅茶売りも来ていて声をかけてくる。

私はブラブラと歩いていくとマーケットと標識がでている。その少し暗い路地を抜けると中華料理店の裏に出て広場になっている。広場の向こうに何やら店らしい灯りがついている。皆のいる所に戻り裏にお店らしい所が有ると話すと、女性陣は”行こう、行こう”となった。

私がお店だと思った灯りがついた場所に行くと、そこはヒンドゥー教のお寺だった。でもその先にも店らしい灯りがいくつか見える。そこまで行くと間口一間、奥行き二間ぐらいの小さな店が数軒並んでいる。携帯電話の店とか電気屋などで食品類は売っていない。並ぶ店の最後の店先に食品と雑貨が並んでいた。

 年寄りの親父さんが店番をしている。中に入ってAさんが「有った!」と棚の上からマサラの箱をおろす。でも10箱ぐらいしかない。" もっとないのかしら"と I さんも奥の棚を物色して更に10箱ぐらいを見つけ出した。ガラム・マサラという万能的なマサラが本当は良いのだけそうだが、有ったのは野菜用マサラだけらしい。でもしょうがないとAさんがいう。さっきの高級土産屋にあった物は200ルピーもした。こちらの箱は少し小さいが値段は35ルピーと格安だ。すると I さんが箱の印刷を見てこれは賞味期限が過ぎているという。たしかに賞味期限が少し過ぎた物と、他の品も残りの日数が少ない物だった。すると”私は期限が過ぎた物でもかまわない”とAさんがいう。店にあったマサラを全部買って皆で分けることにした。

店の奥に置いてあるビニール袋を自分達で取り出して品物を詰め込む。私は4箱買ったので140ルピーだ。でも100ルピー札しかサイフに入っていない。100ルピー札を2枚で釣りをもらうのが面倒だ。そこで表に吊してある10ルピーのスナック菓子の袋を6個取ってマサラと一緒にビニール袋に入れる。そして200ルピーを渡すと親父さんがお釣りを出そうとしている、“ジャスト、ジャスト”とその手を押しもどす。他の人達もマサラ以外にも色々買い込んで押し付けるようにお金を渡す。親父さんは混乱して何が何んだか分からないような顔をしている。

 そこへガイド氏がレストランに入れるようになったと呼びに来た。こうしてドドドッと怒濤のごとく入ってきた日本人の買い物客達は親父さんの店から出て行った。Aさんは”私達はああいうところで買い物がしたかったのヨ”と言う。

もしあの時にガラム・マサラの箱が50個も置いてあったら全部日本人が買っていったであろう。店の親父は折角のビジネスチャンスを逃がしたのだった。 

ーおわりー

  ◎その親父さんの店の写真を不覚にも撮影していなかった(残念!)。

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